「冒険#494」に続いて、今回も佐世保市の西海国立公園にある長尾半島を散策してみましょう。貴重な動植物を探して歩くのも楽しいのですが、今回注目するのは「地層」です。
私たちが住む地球には、岩や砂、火山灰や動植物の死骸などが順番に積み重なり、層を作っています。その層、地層は場所によって様々で、それらを調べることでその場所の大昔の様子を知ることができます。
さっそく、佐世保市のパールシーリゾートから海岸沿いを通って10分ほど歩くと、長尾半島の入り口に到着。半島は先端までおよそ400メートルの距離で、島々に船で渡らなくても九十九島の貴重な自然環境が見られます。まだ寒さ残るこの日は、小さなピンクの可憐な花・ハマジンチョウが咲いているのを見つけました。この花は、佐世保市の「レッドリスト」で「絶滅危惧ⅠB類」として「近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」に設定されています。そこで、九十九島ビジターセンターや環境省が保護の取り組みをしているそうです。
そんな貴重な植物を見た後、半島の中央を貫く遊歩道から分かれた小道を通って、海岸へと下りていくと・・・そこには・・・
ややアップダウンがありますが、子ども連れでも散策OK!往復1時間~1時間半ほどのお散歩コースになります
ハマジンチョウの花。植物名の表示板も見ながら、貴重な植物を探してみて
遊歩道から小道を進むと海岸に出ます
そこにはちょっと見たことがないような不思議な光景がありました。
茶色やベージュやオフホワイトなどのグラデーション。普段は、地面の下や木々が茂っていて見えない地層が、ここではあらわになっています。触ってみるとざらざらした感じ。ちょうど、夕方に差し掛かる時間帯で、少しずつ色合いや光の加減が変わっていて見ていて飽きません。
どうして、こんな光景が広がっているのか、九十九島ビジターセンターの学芸員さんに聞いてみると、この「佐世保層群の相浦層の尼潟亜層の牽牛崎砂岩層」という名前の地層は、とっても古い時代に砂(砂岩)が固まってできたもの。長い時間に波や風に削られて(浸食や風化)、こうした芸術的な形が作られていったそうです。自然が作り出した光景なんですね。
この地層は、中新世前期ごろにできたとみられるとのこと。「中新世」を調べてみると、およそ2300万年前から500万年前までの期間を指し、この時代に日本列島がユーラシア大陸から分離されたり、ヒト科(ヒト;ホモ・サピエンスなど)が現れたころとなります。何百万、何千万年も昔、というのは想像もできないほどの時間です。
海岸に着くと、ちょっとごつごつした岩肌
砂岩でできた地層が長い期間、波や風に削られてできた景色。グラデーション模様が神秘的でした
青い海とのコントラストも素敵で、ここでゆーっくり過ごしてみたくなりました
そんな海岸で少し先に目を向けると・・・カ、カバ!?
大きくあんぐりと口を開けたカバのように見える岩が見えます。九十九島ビジターセンターの学芸員さんもカバのように見えるから「カバ岩」と呼んでいますよ、とあっさり。この岩も砂岩でできていて、長い間の浸食や風化でこのような形が作られたようです。
波や風雨による浸食は、山や地面となっていたところを削ります。そして、そこに海水が入り込んで湾になったり、削られずに残った部分だけが海面上に出ると島となります。こうして、九十九島の景色にも砂岩による地層や浸食・風化は大きく影響しています。
この長尾半島以外にも、九十九島ではおよそ3500万年前の地層を見たり、貝の化石を見ることができるそうです。地層や化石の観察は、環境省が主催して、地質に詳しい先生と一緒に出かける「観察会」も開かれているとのことですので、詳しくは九十九島ビジターセンターにお問い合わせください。
そして、必ず守ってほしいことが、長尾半島含め九十九島一帯は西海国立公園内となるため、動植物や化石を勝手にとってはいけません。詳しい「九十九島でのマナー」はこちらをチェックしてください。
何千万年という、想像もつかないような時間を過ごしてきた九十九島の地層や、このままだとなくなってしまうかもしれない貴重な動植物を、みんなでよく観察しながら、守っていきたいものです。
大きなお口がまさに・・・カバに見えませんか?
九十九島の島々でも、地層や化石を見ることができるそうです
想像を超えるほど長い時間がこの風景を作り出したと考えると興味深いですね
写真・文:冒険する長崎事務局
掲載日:
2023/03/09
※掲載している情報は記事公開時点のものです。変更される場合がありますので、お出かけの際には事前に各施設へお問い合わせください。
【西海国立公園 九十九島ビジターセンター】佐世保市鹿子前町1053-2