長崎市は坂の多い町です。長崎港を囲むように三方向に山がある地形なので、平地が少なく、家々が山に張り付くように建っています。そのため、山の斜面に暮らす人々が多いので、おのずと生活の中に坂が多くなったと思われます。
街の中には上ったり、下ったりいろんな坂がありますが、階段なのに、「坂」と名付けられている場所もあったりして、長崎市民ではない筆者は混乱してしまいます。坂であるなら段はないはず、階段であるなら「〇〇坂」と言わないはず、と思いますが、長崎ではそうなっていない坂や階段があります。
今回は、坂なのか階段なのかを探る冒険の旅に出てみましょう。ただの階段や坂だからといって、安心していると危険です。まさか!の事態とならないよう冒険には危険がつきものであることを忘れずに。
家々が山に張り付く町である長崎市
長崎市内をはしる路面電車。坂を巡る時は一日乗車券がお得。
坂ではなく階段ではと思いますが「坂」と名付けられています。
まずはオランダ坂。長崎市の知られた観光スポットとして上位に来ます。はずせない観光スポットでもあるのですが、坂そのものは何の変哲もない石畳の坂道です。坂の周辺は洋館の住宅街もあり、石畳の坂もあいまって風情ある街並になっています。なお、坂を上ったり下ったりするので靴は歩きやすいものがよいでしょう。
「丸山オランダ坂」という別の坂もあります。鎖国時代、唯一オランダ屋敷に出入りすることが許された遊女が、この坂を行き来していたことでこの名前が付いたようで、こちらのほうが本家のオランダ坂という人もいます。
ちなみに「坂」とついていますが。現在は階段です。遊女が通っていたころは坂道だったのでしょうか?
オランダ坂。石畳の坂と周囲の風景は趣きがある。
オランダ坂。車などが走ることも。
丸山オランダ坂。少々せまい。
次はグラバースカイロード。日本で初めて「道路」として位置づけられた斜めに動くエレベーターです。1階から5階まで乗降口があり、斜面地に住む方の「足」となって活躍しています。斜めにのぼっていく感じはエスカレーターのようでもありますが、ゴンドラに乗って、上下の移動は自分でボタンを押し、ドアの開閉で乗り降りすることを考えればやはりエレベーターといえます。斜行エレベーターの高低差は50メートル、全長160メートルを時速約5キロですすみます。
エレベーターは坂でも階段でもないじゃないか?と思われる方にはこのエレベーターの近くにある相生地獄坂をおすすめします。「冒険」をめざすなら相生地獄坂を行きましょう。長く急な傾斜だから「地獄」なのかもしれませんが、段数も223段とかなりハードです。このあたりは住宅街で、生活している人は毎日、この坂を上り下りしていることを考えると上れない(下れない)ことはありません。これもどうみても坂ではなく階段もしくは石段にしかみえないのですが「坂」と命名されています。冒険には探求心も必要です。そのあたりも探ってほしいところです。
上りきるとグラバー園の第2ゲートに到着します。グラバー園は大半の人が下から上っていくのですが、上から下っていくのが楽なグラバー園の楽しみ方です。今回は、坂が目的なので、グラバー園の入園は次回ということで、ここは入らず次なる坂を目指してください。
グラバースカイロード
相生地獄坂
グラバー園 第2ゲート
グラバー園の横道をすすむと住宅街がひろがっています。急な斜面に住宅が立ち並んでいるため人がすれちがうのがやっというような歩道で、大きな道路はありません。このあたりを歩いていると横の移動は少なく縦の移動に多いことに気づきます。縦の移動すなわち上下の移動には坂や階段を歩きます。住宅がひしめきあうように建っているのに街路灯というのがみられず、夜はさぞ暗いと思われます。このあたりの階段を下りていると階段の踏面のさきっちょの部分が白く塗装されています。夜でも昼でも目立ち、つまずき防止の安全策とも思われ、坂や階段の多い町だけに、こういったところにも生活の知恵が活かされているようです。
白い目印があるとはいえ、階段の幅が違ったり、段差の高さが違ったりするので、ちゃんと見て歩かないとつまずきます。冒険には危険がつきものです。坂の上り下りだからといって、なめていると危険な目にあいます。まさか!とならないように気をつけてください。
さらに住宅街をどんどん進みます。住宅街なので大声を出す、集団で連なりあっての移動にはご注意ください。しばらく歩くと手書きの「ドンドン坂」という案内に出会います。ドンドン坂という坂名と手書きの案内にちょっと軽くみてしまいますが、石畳みの道の横にある三角溝は水流の速さが調節できる設計になっており、坂の名前のカジュアルさと土木設計のノウハウのギャップから、あなどれない坂であることがわかります。周辺は今も住宅として使用されている洋館が残っていて、長崎の異国情緒あふれる風景となっています。
階段が続く住宅街
ドンドン坂
ドンドン坂の表記
続いてはドンドン坂と長崎港をはさんで対岸辺りにある飽の浦町にある坂をご紹介します。
飽の浦町の坂の中でも有名なのは通称「変電所の坂」と呼ばれている坂で、上りきると九州電力飽の浦変電所があります。最寄りバス停から変電所まで約180メートルあり、バス停のすぐそばに滑り台か、ジェットコースターかと思える急な坂が見えてきます。
ある調査では長崎市内で1位の斜度を持つ坂といわれています。この坂はもうひとつ名前があり、地元出身ミュージシャン 福山 雅治 氏によって命名された「きゃあまぐる坂」です。「きゃあまぐる」とは地元の言葉で「気絶するほどえらくきつい」という意味で、その意味通りきつい坂です。冒険にはきつさがつきものですので、ぜひチャレンジしてみてください。
坂の上からは三菱重工の長崎造船所が見え、赤と白のクレーンやグレーの工場の屋根が見えます。これらは世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の一つです。
飽の浦町の坂。この坂を上り切ると変電所アリ。
最後は長崎市の中心部あたりにある諏訪神社の「坂」です。地元の人は「おすわさん」と親しみをこめて呼ぶ神社で、日本三大祭りの一つである「長崎くんち」が催される神社です。その神社に「長坂」と呼ばれる坂があります。神社の踊馬場から拝殿までの73段の階段をそう呼んでいて、その場所は長崎くんちの特等席にもなっており、「長坂連」と呼ばれる集団が祭りを盛り上げます。なお、一番下の鳥居から本殿までは193段の階段があります。
長坂の一番上まで登ってふりかえると斜面地にびっしりと家が立ち並ぶ街が見え、長崎市は坂や階段の町であることが納得できます。長崎にはいろんな表情の坂や階段があります。
筆者には「坂」と名付けられていても段がある道は、やはり「階段」だと感じられましたが、坂なのか階段なのかを確かめるのは実物を知る者のみです。ぜひ、自身の足で確認されてみてください。
諏訪神社の長坂
諏訪神社の入り口
諏訪神社
文・写真 カゼトケイキ 九州在住のフリーランスライター。地域ケーザイ活性化の目線で旅をしています。地域の景気がにぎやかになればの気持ち十分であちこち移動しています。
掲載日:
2020/10/08
※掲載している情報は記事公開時点のものです。変更される場合がありますので、お出かけの際には事前に各施設へお問い合わせください。
【オランダ坂】長崎県長崎市東山手町2
【丸山オランダ坂】長崎県長崎市丸山町
【グラバースカイロード】長崎県長崎市上田町8-7
【相生地獄坂】長崎県長崎市相生町
【ドンドン坂】長崎県長崎市南山手町
【飽の浦の坂】長崎県長崎市飽の浦町
【長坂(諏訪神社)】長崎県長崎市上西山町18番15号