長崎市の観光名所グラバー園の近くに「祈りの三角ゾーン」と呼ばれる場所があります。教会、寺、神社が接するため、そのように呼ばれるようになったという全国的にも珍しい、そしてなんとも長崎らしい場所です。異国情緒あふれるこのエリアは、ふらりと歩いても絵になる場所ばかり。そして、観光客の多い表通りから一歩入ると、石畳が敷かれた坂道や階段が続き、静かな時の流れを感じる風情ある町並みが続きます。「祈りの三角ゾーン」を中心に南山手の散策に出かけませんか。
スタートは長崎電気軌道石橋電停です。電停のすぐ横、地元の人でにぎわう商店と商店の間の通りへ入ると、突き当たりの階段に「国際あいさつ通り」の看板が見えます。かつて多くの外国人が生活していたことからこの名が付けられたそうです。どんな人がここを歩いたのかな・・・と想像しながら、案内表示に従い大浦天主堂方面へ。石橋電停から大浦天主堂まで大人の足で歩けば4、5分ほどで着く距離ですが、坂と階段が続くので自然と休み休みの道のりに。その名にちなんで、通りすがりの人に「こんにちは」とあいさつしながら行くのんびりペースが、この辺りの散策には合っているのかも知れません。
石橋電停。すぐ近くにバス停もあります。
この突き当たりから「国際あいさつ通り」を大浦天主堂方面へ。
左側の「新相生通り」からも、上の大浦展望公園まで行けます。
「国際あいさつ通り」を進み、通りが少し広くなった所に「祈りの三角ゾーン」の案内があります。左手に大浦諏訪神社、右手に妙行寺、奥には大浦天主堂と大浦教会があり、西洋と東洋が入り混じる長崎独特の文化を感じることのできるスポットです。
奥に見える緑色の三角屋根は大浦教会のもので、大浦天主堂はもう少し左側に位置しています。大浦教会は大浦天主堂を訪れる観光客の増加に伴い、信徒の祈りの場として1975年に新たに建立されたものだそうです。右手に見える妙行寺は真宗大谷派の寺院。案内によると、居留地時代には日本初の英国領事館が開設されたとあり、由緒あるお寺であることがうかがえます。お寺にユニオンジャックがはためく光景は、当時の人々の目にはどう映ったのでしょうか。
1860年撮影の貴重な写真が見られます。
大浦教会。オレンジ色の扉、赤レンガ風の外観が周囲の景観になじんでいます。
細部まで美しい妙行寺の山門
「祈りの三角ゾーン」の一角である大浦諏訪神社へ。諏訪神社と言えば長崎市では上西山町のお諏訪さんが有名ですが、地元の人に話を聞くと、みなさん「こちらの諏訪神社が本家よ」と誇らしげに教えてくれます。古くから地域で大事にされてきている神社です。毎年10月には大浦くんちが催され、とても盛り上がるそうです。
敷地は決して広くはなく、拝殿までは階段が続きます。手水舎では龍が凛々しくお出迎え。拝殿まで上ると一気に景色が開け、坂の町長崎らしい景色が一望できますよ。
「祈りの三角ゾーン」の案内のすぐ横にある大浦神社の鳥居。ここから階段が続きます。
龍に見守られながら身を清めます。
派手さはありませんが清々しい雰囲気の拝殿
大浦神社にお参りしたら、妙行寺の墓地を抜けて大浦天主堂へ。国宝であり、2018年には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界文化遺産にも登録されている、この地域のシンボルともいえる存在です。同じく2018年に外壁の塗り替えもされて、真っ白くきれいな姿になりました。
敷地内には大浦天主堂の他に2つの大きな建物があります。旧羅典神学校は1875年に建てられた長崎公教神学校の校舎兼宿舎で、国の重要文化財に指定されています。当時の神学校の授業はラテン語で行われていたのでこのような通称で呼ばれていたそうです。もう一つの旧長崎大司教館は1915年に建てられ、長崎県の有形文化財に指定されています。この2つは現在「大浦天主堂キリシタン博物館」として開館しているそうです。
左から大浦天主堂、旧羅典神学校、旧長崎大司教館。
世界文化遺産であることを知らせるプレートが設置されていました。
大浦天主堂から長崎港まできれいに見通せます。
来た道を少し戻り、妙行寺の墓地の横から「祈念坂」を上ります。大浦天主堂のすぐそばを通るので、窓の造りやステンドグラスが間近に見え、改めてその大きさを感じます。ちょっと息が切れますが、白い大浦天主堂と赤レンガ、緑色の街灯、石畳などを眺めながらのんびりと歩いて楽しみましょう。
上りきった所にある祈念坂の看板には「あなたは何を祈りますか」の文字。振り返ると長崎港が美しく見えました。祈念坂の先には大浦展望公園、そして南山手レストハウスがあります。案内表示には「グラバー園(第2ゲート)」とあり、ここからもグラバー園に入れるようです。
人とすれ違うのがやっとの幅
上りきって見えるこの景色に、坂道の疲れも癒やされます。
大浦展望公園からの眺めも抜群です。
大浦展望公園のすぐ横にある南山手レストハウス。1860年代に造られた洋風住宅で、石造りの外壁に瓦屋根と煙突という和洋折衷な外観です。2003年から観光客などが利用できる休憩所として一般開放されています。館内には居留地時代の写真や古めかしい家具が飾られていて、まるでタイムスリップしたような気分になります。飲み物の自動販売機やトイレ、テラスなどもあり、周辺散策のひと休みにうれしいスポットです。
手入れの行き届いた庭。この時はバラが咲いていました。
居留地時代の暮らしを偲ばせる室内
裏口からは大浦天主堂、大浦教会の先に水辺の森公園、長崎港が見えました。
南山手レストハウスから大浦小学校方面へ歩くと、グラバースカイロードの愛称で呼ばれている斜行エレベーターの乗り場があります。このエレベーターで一気に石橋電停付近まで降りることができます。周辺住民の利用が優先ではありますが、観光客など一般の利用ももちろんOK。
エレベーターの乗り場付近からは、山の上までびっしりと家が建っている長崎ならではの景色が広がっていて、県外の人には珍しいのか写真を撮っている観光客の姿もありました。グラバー園第2ゲートも近く、観光地ではありますが、猫がのんびりお昼寝をしていたり、犬のお散歩をしている人がいたり、どこかのんびりとした雰囲気です。エレベーターの中からは外の景色を見ることができます。長崎港や洋館、エレベーターの周りをぐるりと囲む階段など、次々と現れる景色を追っているうちに、あっという間に1階に着きました。ここからスタート地点の石橋電停までは目と鼻の先です。
「祈りの三角ゾーン」を中心とした南山手の散策。今回は石橋電停から上りながら各スポットを巡り、斜行エレベーターで降りてきましたが、逆のルートの方が下り道なので体力的にきつくなく、お子さんと一緒の時などはお勧めです。有名な観光地でありながら、まだまだ知られていないスポットがたくさんある魅力的なこのエリア。ぜひゆっくりと歩いてみてください。
大浦展望公園から見える斜行エレベーター
この丸い窓から外の景色が楽しめます。
グラバースカイロード入り口
文 近藤みき(長崎在住フリーライター。何気ないけどふと笑ってしまうような光景を探して、長崎の町を歩いています)
掲載日:
2020/08/24
※掲載している情報は記事公開時点のものです。変更される場合がありますので、お出かけの際には事前に各施設へお問い合わせください。
【大浦天主堂】〒850-0931 長崎県長崎市南山手町5-3
【妙行寺】〒850-0922 長崎県長崎市相生町9-8
【大浦諏訪神社】〒850-0922 長崎県長崎市相生町10-1