長崎市の外海(そとめ)地区南部にある出津(しつ)には世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産である「外海の出津集落」があり、出津文化村として整備されています。この集落には、歴史民俗資料館、出津教会堂、ド・ロ神父記念館など、この地方で広まったキリスト教の文化を伝える施設がいくつか残っています。また近くには、この地方の禁教をテーマにした作家・遠藤周作の文学館もあります。外海町を訪ねてこの地方におけるキリスト教の歴史や文化に触れてみましょう。
1982年に開館した「歴史民俗資料館」は出津集落の中心的な施設の一つです。ここでは外海地区の歴史や文化に関する資料を展示しています。資料館は2階建ての建物で、1階はかつて地元の人々が使った農工具や漁業道具などを展示。また昔の農家の建物を再現したものも置かれています。その他すでに閉山した池島炭鉱の資料を見ることもできます。
2階には、外海町のキリスト教に関する資料が展示されています。特に潜伏キリシタンについての資料は、他の資料館では見られないほど豊富です。資料館の前には明治時代に外海町でキリスト教を広めたド・ロ神父が子供を見つめる銅像がたっています。
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外海町の南部にある出津文化村
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歴史民俗資料館
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敷地内に建てられたド・ロ神父像
出津集落には、その他「出津教会堂」「ド・ロ神父記念館」「旧出津救助院」などのキリスト教関係の施設があります。どの施設も、この地区で宣教師活動をしていたド・ロ神父が設計したものです。
出津集落は元々潜伏キリシタンの集落でしたが、明治に禁教が解かれると、フランス人宣教師マルク・マリー・ド・ロ神父が赴任し、1882年、ここに教会を建てました。それが出津教会堂です。その後信者が増えたため、2回増築し現在のような建物になりました。教会の建物は、台風の被害を避けるために屋根が低く堅牢な造りになっています。
ド・ロ神父記念館は、神父の住まいを記念館として整備したものです。この地区の貧しい人々に深い慈愛を注ぎ多くの人を助けたド・ロ神父の功績を記念して保存され、建物内には神父ゆかりの品々が納められています。
そうした神父の活動の場となったのが出津救助院でした。今は史跡として保存されているので「旧出津救助院」と呼ばれています。この救助院の敷地内には、当時使われていた授産場、マカロニ工場、製粉工場、薬局が残っています。これらの施設では、見学のほか、さざざまな体験もできるようになっています。
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出津教会堂。台風などの被害を受けないように屋根が低く堅牢な設計になっています。
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ド・ロ神父の住まいを整備した「ド・ロ神父記念館」
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ド・ロ神父の活動の場となった「旧出津救助院」
出津文化村から南に車で5分ほど行くと、角力灘(すもうなだ)の素晴らしい海を見下ろす抜群のロケーションに到着します。ここに建てられているのが「遠藤周作文学館」です。
遠藤周作は、昭和時代に活躍した作家です。満州で生まれ東京で教育を受けましたが、幼年の頃にカトリック教の洗礼を受けたことで、キリスト教をテーマにした作品をいくつか執筆しました。その一つが、外海エリアを舞台にした小説「沈黙」です。この小説は、外海地区におけるキリスト教弾圧の歴史を背景に、そこで弾圧される人々の生き方を描いたものです。この文学館は、「沈黙」ゆかりの地であるこの場所を選び、遠藤文学の拠点として、2000年に建てられました。
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「遠藤周作文学館」は、角力灘を見下ろす素晴らしいロケーションに建っています。
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外海エリアが舞台になった遠藤周作の小説「沈黙」を記念して建てられた「遠藤周作文学館」
出典:ウィキペディア
作家 遠藤周作
遠藤周作文学館の中は、遠藤周作の誕生から晩年までの人生を「少年時代」「大学時代」「フランス留学」「作家の軌跡」「人生と文学の集大成」に区分して、それぞれ関係の資料を展示しています。施設内には展示室の他に、素晴らしい景色を見ながら遠藤文学を満喫できる聴濤室(ちょうとうしつ)やショップ「外海」、思索空間「アンシャンテ」があり利用することができます。
また、2年ごとにテーマを変えて企画展を開催しています。 最初の企画展はこの文学館が建てられることになったゆえんである小説「沈黙」をテーマとして開催されました。
また、文学館ができる13年前の1987年、出津文化村内に「沈黙の碑」が建てられています。遠藤周作は外海の地を大変気に入っていたようで、「あの碑と場所は私が思っていたとおりの場所で、(中略)とにかく私にとって、ベターではなくベストの文学碑」という言葉を残しています。
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館内は、遠藤周作の人生の各時代毎に区切られ、資料が展示されています。
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遠藤周作文学館では2年毎にテーマを変えて企画展示が行われます。
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出津文化村に建てられた「沈黙の碑」
出津文化村と遠藤周作文学館を見学した後は、文学館の隣にある「道の駅 夕陽が丘そとめ」を訪ねてみるのはどうでしょう。文学館から見る風景も素晴らしいですが、道の駅は文学館よりも一段高い所にあるので、素晴らしい角力灘や出津文化村の風景をより遠くまで見渡すことができます。特にここから眺める夕日は格別です。天気が良い日には、五島列島の風景も遠望できます。道の駅のそばに建てられた教会の鐘のモニュメントもすてきです。道の駅では「ド・ロ様そうめん」を味わったり、地元の特産品などをお土産に買うのもいいですね。
キリスト教徒の歴史や文化が保存されている長崎市外海町の出津文化村と遠藤周作文学館を紹介しました。ド・ロ神父の慈愛に満ちた活動や、小説「沈黙」に書かれた内容を知れば、キリスト教の文化がより深く理解できるのではないでしょうか。ぜひ訪ねてみてください。
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角力灘や出津文化村の展望が楽しめる「道の駅 夕陽が丘そとめ」
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道の駅のそばには、教会の鐘のモニュメントが建っています。
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夕方になると、道の駅から素晴らしい夕日を眺めることができます。
写真提供:長崎県観光連盟ほか(※教会の写真掲載に当たっては大司教区の許可をいただいています。)
文:Setsuko Truong
メルボルン在住のフリーランスライター。旅とアートが趣味で日本国内・海外あちこち旅してきました。長崎は好きな町の一つ!そんな長崎の魅力をお伝えしたいと思います。
掲載日:
2020/07/30
※掲載している情報は記事公開時点のものです。変更される場合がありますので、お出かけの際には事前に各施設へお問い合わせください。
【長崎市外海歴史民俗資料館】〒851-2322長崎市西出津町2800
【出津教会堂】〒851-2322 長崎県長崎市西出津町2602
【ド・ロ神父記念館】851-2322 長崎県長崎市西出津町2633
【旧出津救助院】〒851-2322 長崎市西出津町2696-1
【遠藤周作文学館】〒851-2327長崎県長崎市東出津町77
【道の駅 夕陽が丘そとめ】〒851-2327 長崎県長崎市黒崎東出津町149-2