五島市は、世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産に含まれる教会を初め、数多くの教会があることで知られていますが、同時に寺院や神社も多いところです。特に福江島では地蔵堂や観音堂を入れて「八十八ヶ所札所めぐり」ができるようになっています。すべての場所は紹介できないのですが、この記事では主な寺院を3か所、そして、「八十八ヶ所札所巡り」とは別に神社を2か所紹介します。福江島のお寺や神社を訪ねて幸福や平和を祈願しましょう!
八十八ヶ所札所巡りのスタートは明星院です。寺院に残っていた古文書によると、この札所巡りは1886年に始まったそうです。現在の明星院は1778年に建立されたものです。中国から戻った空海がこの寺院を訪れた時に、金星からすさまじい光がさすのを見たことから明星院という名前が付けられたといわれています。境内には空海の像と碑が作られています。
明星院は空海が訪ねる前から存在していた寺院で、インド仏教の影響を受けていたと考えられています。そのことを示すのが、本堂の入口の上部に飾られている象の彫り物です。(一般的な寺院では龍や雲の彫り物が飾られています。)明星院でもう一つ見逃せないのが狩野派に師事した五島藩の絵師・大坪玄能による本堂の天井画です。天井は格子状になっていて、それぞれの枠に花鳥の絵が描かれています。
©五島市
「五島八十八ヶ所札所巡り」のスタートになっている明星院
©五島市
境内には弘法大師の像と碑がたてられています。
©長崎県観光連盟
花鳥画の描かれた本堂の天井
大宝寺(だいほうじ)は福江島の玉之浦町にあります。玉之浦は遣唐使が唐に向けて出発するときの最終地点でした。その遣唐使に随行した空海もここにしばらく滞在し講和を説いたため、「西の高野山」と呼ばれ、寺の入口にも「高野山」の名前が掲げられています。
大宝寺は701年に創設された古いお寺で、境内にも注目すべきものが残っています。その一つが1375年に作られた梵鐘(ぼんしょう)で、これは長崎県の有形文化財に指定されています。
境内にはその他、「へそ神様」と呼ばれる五重の石塔があります。へそ神様と呼ばれるのは、子どもが生まれるとその子どもの健やかな成長を願ってへその緒をこの石塔の下の穴に納めるからだそうです。この石塔は1369年に関西で作られ、五島に運ばれてきたと言われています。梵鐘と併せ、その頃に五島と関西の間にあったと考えられる交通・交易路を研究する上での大事な資料になっています。
©五島市
五島で最も古い寺院大宝寺。空海が滞在したことから「西の高野山」と呼ばれています。
©五島市
長崎県の有形文化財に指定されている梵鐘
©五島市
境内にある五重の石塔は「へそ神様」と呼ばれています。
宗念寺は五島市役所の北側にある寺院です。近くには福江城の跡があります。建立は1634年。肥前国福江藩の2代目藩主であり五島家の22代目当主であった五島盛利の母親「芳春尼」が亡くなった時に、その菩堤寺として建てた寺だと言われています。
境内には複数の地蔵尊の像が置かれて、昔の藩主の側室や上級家臣のお墓も残っています。また、日本を初めて測量して地図を作った伊能忠敬の副隊長を務めていた江戸出身の坂部貞兵衛(さかべていべい)のお墓もあります。当時坂部貞兵衛は五島の若松島で測量をしていましたが、そこで病気になり、福江島に運ばれ治療を受けました。ところが病気は治らず福江で最期を迎えたのです。今だったら、遺骨を家族のところに送ると思いますが、当時はそんなことも簡単にできなかったことがわかりますね。
©五島市
宗念寺は福江藩藩主の母親の菩提寺として建てられました。
©五島市
境内には複数の地蔵尊の像が置かれています。
©五島市
日本を初めて測量して地図を作った伊能忠敬の副隊長「坂部貞部兵衛」の墓
これまでは五島福江島にあるお寺を紹介してきましたが、福江島には神社も複数あります。ここでは代表的な神社を2つ紹介します。
約600年の歴史を持つ巌立神社(いわたてじんじゃ)は五島の藩主が最初に建てた由緒ある神社です。このあとで紹介する白鳥神社と並んで「五島四社」の一つに数えられています。
巌立神社の境内には、南北約280メートル、東西約140メートルの原生林から成る社叢(しゃそう=神社の森)があり、長崎県の天然記念物に指定されています。社叢内に数多く生育するシイノキやオガタマノキは五島の暖地性を示す樹木として評価されています。
©五島市
巌立神社は五島藩主が最初に建てた神社です。
©五島市
由緒ある巌立神社は五島四社の一つに選ばれています。
©五島市
神社の森(社叢)は原生林で、長崎県の天然記念物に指定されています。
白鳥神社(しらとりじんじゃ)は、福江島西部にある玉之浦湾に面したところに建っています。698年に建立されたこの神社は、日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀っている由緒ある神社で、白鳥の名前は一羽の白鳥が舞い降り、「我は神の化身なり」と言ったことからつけられたと言われています。
白鳥神社は五島四社の一つであり、例年9月下旬に白鳥神社例大祭りや夜神楽などのイベントが行われます。
社叢には、この地域の温暖な気候で育った原生樹が数多く生育しているため、1977年に長崎県の天然記念物に指定されました。
キリスト教、仏教、神道の3つの宗教が色濃く存在する五島の福江島。その島に数多く残る寺院と神社の中から主のものを紹介しました。寺の多くは、「五島八十八ヶ所札所巡り」の遍路に組み入れられています。この札所巡りに参加したり、また参加しなくてもいくつかの神社仏閣を訪ねて、幸福と平和を祈願しましょう!
©五島市
福江島の玉之浦湾近くに建てられた白鳥神社
©五島市
日本武尊を祀っている由緒ある神社です。
©五島市
毎年9月には白鳥神社例大祭が行われます。
写真提供:五島市、長崎県観光連盟
文:Setsuko Truong
メルボルン在住のフリーランスライター。旅とアートが趣味で日本国内・海外あちこち旅してきました。長崎は好きな町の一つ!そんな長崎の魅力をお伝えしたいと思います。
掲載日:
2020/09/11
※掲載している情報は記事公開時点のものです。変更される場合がありますので、お出かけの際には事前に各施設へお問い合わせください。
【明星院】〒853-0042 長崎県五島市吉田町1905
【大宝寺】〒853-0413 長崎県五島市玉之浦町大宝633
【宗念寺】〒853-0007 長崎県五島市福江町642
【巌立神社】〒853-0701 長崎県五島市岐宿町岐宿239
【白鳥神社】〒853-0411 長崎県五島市玉之浦町玉之浦1629