伊王島(いおうじま)は長崎港から直線距離にして南西に約10キロメートルの所にある島です。普通「伊王島」と呼ぶときには隣の沖ノ島も含めます。2018年時点の人口は691人。夏はリゾート地として賑わいますが、ドライブを楽しむのにすてきな場所です。伊王島のドライブ、いったいどんなものを見つけることができるのでしょう。さっそく冒険に出かけてみましょう。
伊王島町の2つの島、伊王島と沖ノ島の間はわずか数十メートルと接近しています。この間には栄橋、賑橋、祝橋の3つの橋が架けられています。そして沖ノ島と長崎市本土(香焼町)を結んでいるのが2011年に作られた長さ876メートルの伊王島大橋です。以前は長崎から行くときには、長崎港と伊王島港を結ぶ旅客船に乗らなければいけませんでしたが、今ではこの橋のおかげで、長崎市の中心部から車で約30分で到着できます。海の上に架けられた伊王島大橋は壮観。大橋を渡ると海岸は岩場になっています。下に降りる階段があるので時間があったら岩場で散策や磯遊びを楽しんでください。
©長崎県観光連盟
2011年に作られた伊王島大橋は壮観。
岩場の海岸に下りられます。散歩や磯遊びが楽しもう。
伊王島大橋を後に主要道路をそのまま海岸沿いに車で進むと、1キロメートルも行かないうちに前方左側の高台に白い美しい建物が見えてきます。これが馬込教会(まごめきょうかい)です。
伊王島はかつて交通の便が良くなかったことから隠れ家として都合が良かったので、特に島原の乱以降、弾圧を逃れたたくさんの潜伏キリシタンがこの島に移り住んでいました。この教会は、明治維新になり禁教令が解かれたので、1871年に創設されました。その後、何度か台風の被害を受け建物が破損。そのため1931年に鉄筋コンクリートの建物に改築し現在に至っています。
白亜の壁とゴシック様式が美しいこの建物は国の有形文化財に指定されています。建物自体も美しいですが、階段を登って高台に建てられた教会から眺める風景はヨーロッパを思わせるような美しさ。教会を訪ね歴史の跡を辿り、同時に教会から見える絶景も楽しみましょう。
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高台に建てられた教会から見える風景はまるでヨーロッパ。写真掲載に当たっては大司教区の許可をいただいています。
伊王島には、潜伏キリシタンの歴史と並んで、「俊寛僧都(しゅんかん そうず)」の歴史の跡も残っています。俊寛僧都は、平安時代後期の真言宗の僧。俊寛が実際の名前で、僧都は僧の位を示します。当時俊寛は後白河法皇の側近を務めていましたが、何かの事情で平氏打倒の陰謀に加担したとして、1177年、藤原成経、平康頼らとともに「鬼界ヶ島」に島流しにされます。その後藤原成経と平康頼は許されたのですが、俊寛は最後まで許されずこの島で一生を終えました。この鬼界ヶ島がどの島だったのかは明確にされていませんが、伊王島には俊寛の墓があり、長崎市の有形文化財に指定されています。
俊寛僧都の墓の横には、北原白秋(きたはらはくしゅう)の歌碑が建っています。歌碑には、「いにしへの 流され人も かくありて すゑいきどほり 海を睨みき」と書かれています。これは遠い昔に無念の死を遂げた俊寛の死を悼んで白秋が作った歌を刻んだ石碑です。北原白秋は、明治から昭和にかけて活躍した詩人。「ゆりかごの歌」や「まちぼうけ」などの動揺の作詞でも知られています。
この2つの史跡は沖ノ島から伊王島に渡って500メートルほど進んだところにあります。
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無念の気持ちで一生を終えた俊寛僧都の墓。
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俊寛の墓の隣に建てられた北原白秋の歌碑。白秋は俊寛の死を悼んでこの歌を作ったと言われています。
さて、ドライブもだいぶ伊王島の先端部に近づいてきました。先端近くの東側にある海水浴場「コスタ・デル・ソル伊王島海水浴場」に足を運んでみましょう。コスタ・デル・ソルはスペイン語で「太陽の海岸」を意味します。遠浅の静かなビーチが広がっています。出かけるのが夏だったら、もちろん泳ぎたいですね。でもその他の季節でもビーチ遊びをするにはもってこいの海岸です。
海水浴場から北西に進むと「夕陽ヶ丘展望所」に着きます。名前の通り、ここから見える夕日は格別。展望所には日よけが付いてベンチも置かれているので、しばらくここに座って海に沈んで行く夕日を眺めてみてください。対岸には長崎市の福田地区が見えます。
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美しい海が広がるコスタ・デル・ソル海水浴場。
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夕陽ヶ丘展望所。遠くには長崎市の福田地区が見えます。
さて、伊王島のドライブも最後になりました。終点は伊王島灯台。この灯台の歴史は長く、建設されたのは1870年、明治維新からわずか2年後のことです。当時アメリカ、イギリス、フランス、オランダの4か国と結んだ江戸条約によって、建設が進められました。この条約で建設された灯台は、伊王島灯台を入れ全国で8カ所。伊王島灯台は、当時長崎港に多くの船を送りこんでいたオランダの要求で作られました。
その後、この灯台は、原爆の被害にあい破損したため現在のような六角形の鉄筋コンクリートの建物に改築されました。ただし、天井のドームの部分は最初に建設されたときのものをそのまま使っています。灯台は今では無人化されていますが、灯台の近くには、昔灯台守が住んでいた洋館が残っています。洋館の中は現在では、「伊王島灯台記念館」に作り変えられ一般に公開。また、この建物は正式名「伊王島灯台旧吏員退息所」として、県の有形文化財に指定されています。
きれいな海に囲まれたリゾート地としてのイメージの強い伊王島。その島にこんなにたくさんの歴史が詰まっているのはちょっとした驚きですね。夏には美しいビーチやリゾートで楽しく過ごし、その他の季節にはドライブをして伊王島の歴史の跡を辿ったり、展望台から素晴らしい風景を眺めてみるのはどうでしょう。伊王島の魅力が再発見できることでしょう。
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伊王島の先端にある伊王島灯台はオランダの要求で作られました。
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最初の灯台は台風の被害で破損したため現在のような六角形の鉄筋コンクリートの建物に改築されました。ドームはもとのまま。
写真提供:長崎県観光連盟ほか
文:Setsuko Truong
メルボルン在住のフリーランスライター。旅とアートが趣味で日本国内・海外あちこち旅してきました。長崎は好きな町の一つ!そんな長崎の魅力をお伝えしたいと思います。
掲載日:
2020/03/03
※掲載している情報は記事公開時点のものです。変更される場合がありますので、お出かけの際には事前に各施設へお問い合わせください。
【伊王島大橋】〒851-1201 長崎県長崎市伊王島町~香焼町
【馬込教会】〒851-1201 長崎県長崎市伊王島町2-617
【俊寛僧都の墓 / 北原白秋の歌碑】〒851-1201 長崎市伊王島町1 円通寺敷地内
【コスタ・デル・ソル海水浴場】〒851-1201 長崎県長崎市伊王島町1-2129
【夕陽ヶ丘展望所】〒851-1201 長崎県長崎市伊王島町1
【伊王島灯台】〒851-1201 長崎県長崎市伊王島町1-3240-1