三川内町(みかわちちょう)は長崎県佐世保市の東部にある地区です。昔から焼物で栄えた所で今でも窯(かま)がいくつかあり、「三川内焼(みかわちやき)」と呼ばれる磁器をたくさん生産しています。400年の歴史を持つ三川内焼がどんなものなのか、そしてどのようにして長い間生産を続けてきたのかご紹介します。
「磁器」は器のベースになる素地(きじ)が白いものですが、三川内焼にはいくつかの技法があります。透かし彫りは器の表面に細かい穴を開けて模様を作るやり方です。また手捻り(てびねり)は動物や植物の小さな粘土細工をを前もって作っておいて、それを花瓶などの器に取付けて焼く技法です。その他「唐子(からこ)」といって中国の子どもたちが遊ぶ様子を青い絵具で描いて焼く技法、や「エッグシェル」と呼ばれる卵の殻のように薄い磁器を作る技法もあります。
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透かし彫りと手捻りを施した白磁
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手捻りで狛犬を付けて焼いた磁器
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実用的な三川内焼の器。「唐子」の絵も見られる。
「皿山(さらやま)」というのは九州地方で陶磁器を生産するエリアのことを意味しますが、三川内町にも皿山があります。ここには窯の煙突が何本か立っていています。昔は薪を燃やして磁器を焼いていたので煙突が必要でしたが、今はガスや電気を使うため煙突は使われていません。ただ、煙突は三川内町のシンボルになっているので、「美しい町並み」としてこれからも残していくことが計画されています。
三川内町には今では使われなくなった窯の跡がいくつか残っています。その一つが江戸時代に藩の御用窯として使われていた東窯の跡です。東窯は当時三川内町で最大の規模を誇った窯で、その跡は全長120メートルあります。東窯は1937年に需要がなくなり閉鎖され、その周辺には住宅が作られています。
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三川内町のシンボルになっている煙突のある皿山の風景
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江戸時代に最大規模を誇った東窯の跡
窯にはいくつかの種類がありますが、山の斜面や坂を利用して複数の細長い窯を上方向に並べて作った窯を「登り窯」といいます。この登り窯は粘土をレンガ状に積み上げて作るのですが、そのレンガに熱くなった灰や釉薬が飛び散り、長い間使っていくうちに赤褐色に変色し、独特の美しい風合いが生まれます。このレンガの廃材を「トンパイ」と呼んでいます。三川内町にはトンパイを使って作った塀があり、それを「トンパイ塀」と呼んでいます。
また、この塀のすぐ近くには、真ん中に段がついてぼこぼことした道がありますが、これは「馬車道」と呼ばれ、昔、窯で燃やすための薪を馬が運ぶときに利用した道で中央の段は馬が滑らないように付けられたものです。
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色合いが美しいトンパイ塀
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昔、馬が薪を運ぶのに使った馬車道
「うつわ歴史館」は佐世保の器の歴史を展示している博物館です。古いものでは佐世保市瀬戸越の泉福寺洞窟で発見された約12000年前に作られたと考えられている「豆粒文土器」のレプリカも展示され、太古の時代から現代の三川内焼に至るまでの佐世保の器の歴史を辿ることができます。また展示資料では、縄文時代から、平戸藩の御用窯として栄えた時代、そして江戸時代に陶器から磁器へと変わっていった様子などを理解することができます。館内では三川内焼の制作工程のビデオも上映しているので、磁器がどのように作られるのかを見ることができます。
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うつわ歴史館の建物
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うつわ歴史館の展示の様子
「三川内焼伝統産業会館(三川内焼美術館)」は、三川内焼の伝統的な技法を次の世代に伝えていくために作られた施設です。ここには江戸時代の平戸藩窯で作られた名作や、現代に作られた逸品が展示されています。また、館内では有料ですが、絵付けや透かし彫りの体験ができます。
明治になると藩がなくなったため閉鎖された窯もあり、一時活気のない時代がありましたが、1899年には「意匠伝習所」が作られ、地元の陶工や東京美術学校の教授などを招いて若い世代にも三川内焼の技法を受け継ぎました。そのおかげで、三川内焼は今日のようにまた復活できたのです。この意匠伝習所は現在運営されていませんがその跡が残っています。
九州の焼物というと佐賀県の有田焼や伊万里焼が有名ですが、長崎県佐世保市の三川内町地区では「三川内焼」が長い間受け継がれて来ました。そして卵の殻のように薄い磁器「エッグシェル」などを創作し、ヨーロッパでもその価値を認められています。白い素地に描かれる青い絵柄や細かな穴模様のある磁器など、特別な技法を特徴とする三川内焼。その陶芸の地元である佐世保市三川内町を訪ね、三川内焼の歴史と技法をぜひ学んでみてください。
文:Setsuko Truong
メルボルン在住のフリーランスライター。旅とアートが趣味で日本国内・海外あちこち旅してきました。長崎は好きな町の一つ!そんな長崎の魅力をお伝えしたいと思います。
写真提供:長崎県観光連盟・佐世保観光コンベンション協会
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三川内焼伝統産業会館の前景
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館内では絵付けをする楽焼や透かし彫りの体験ができます。
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昔、三川内焼の技法を伝承した「意匠伝習所」の跡
掲載日:
2019/04/18
※掲載している情報は記事公開時点のものです。変更される場合がありますので、お出かけの際には事前に各施設へお問い合わせください。
【うつわ歴史館】〒859-3155 長崎県佐世保市三川内町289-1
【三川内焼伝統産業会館(三川内焼美術館)】〒859-3151 長崎県佐世保市三川内本町343