農林水産省が「うちの郷土料理」と題してまとめたウェブサイトを基にお伝えしてきた長崎県の郷土料理。5回シリーズのラストは、県内全域と長崎市の郷土料理を紹介します。
長崎の郷土料理と言って、誰もがまず思い浮かべるのは「ちゃんぽん」と「皿うどん」ではないでしょうか。
このうち、ちゃんぽんは1899年(明治32)に、長崎市の中華料理店が中国人留学生においしくて栄養があるものを食べさせてあげようと作ったのが始まりと言われています。ちゃんぽん、とは中国語の「ごはん」を意味する「喰飯(シャンポン)」がなまったとか、ポルトガル語が語源などの説があります。
元々はお店で残った食材で作られたそうですが、今のちゃんぽんは肉や野菜をまず炒め、そこにスープと中華麺を入れて煮込みます。提供するお店やそれぞれの家庭によって具材や味付けが違いますが、豚肉、キャベツ、もやし、海鮮類などが入っているのが一般的。冬場は「カキちゃんぽん」も人気ですね。紅白のかまぼことキャベツの緑の彩りが目を引きます。
長崎市内、特に中華街のちゃんぽんは、白濁したとんこつスープが主流ですが、雲仙市の「小浜ちゃんぽん」はあっさりした鶏ガラスープで出されます(小浜ちゃんぽんは生卵のトッピングがポイント)。お店によって味付けや具材が違うので、ちゃんぽんマップが作られたり、1軒1軒食べ歩く人もいます。
一方、皿うどんは肉や野菜を炒めるところは同じですが、これをあんかけにして、麺の上にかけていただきます。こちらも長崎市の同じ中華料理店が、「汁なしのちゃんぽん」として作ったのが始まりなんだそう。麺は、細い麺を揚げたパリパリとした食感の「細麺」と、ちゃんぽんと同じ中華麺を使った「太麺」の2種類があります。皿うどんやちゃんぽんは、麺や粉末などのスープがスーパーなどで売られているので、家庭でも気軽に作ることができる一品です。
農林水産省webサイト「うちの郷土料理」。色々、検索してみると興味深い
出展元:農林水産省webサイト「うちの郷土料理」
長崎、といえば、まず名前があがる「ちゃんぽん」。味の良さもさることながら、栄養バランスも抜群!
出展元:農林水産省webサイト「うちの郷土料理」
パリパリ揚げ麺の「細麺」は翌日、ちょっとふやけたのも味がしみてなかなかうんまい
長崎市の郷土料理も、島原半島や平戸のようにその土地の歴史にちなんだものが目に付きます。
「ヒカド」というその名前はどんな意味だろう?と思ったのは、西洋のシチューのような料理です。ポルトガル語の「細かく刻む」という意味を持つPicadoが語源だそうです。鶏肉や大根、にんじん、しらす干しなどが入った煮物で、醤油で味付けます。最後にすりおろしたさつまいもを入れることで、甘みととろみが加わります。江戸時代、海外に唯一開かれた窓として貿易が盛んにおこなわれた長崎―。出島に居住したポルトガル人たちが食していたシチューを真似て、長崎の食材を使ったオリジナルの料理を生み出したようです。
長崎では、名物の卓袱(しっぽく)料理の一品として食べることができます。
「パスティ」も、鎖国時代の出島から伝わったという料理。今でも卓袱料理のメニューの一つとして提供されていますが、このパスティはちょっと不思議な一品です。
西洋風のパイ包みのようで、その中に入っている具材にはきくらげのように中華料理によく使われるものが入っていたり、味付けは和風だったり・・・と、そんなどこの国のものか分からない、「わからん」料理こそ長崎独自の料理ともいわれます。漢字で書くと「和華蘭」。和食の「和」、中華の「華」、そして西洋、オランダの「蘭」(アメリカを米(米国)、と書くように、オランダは漢字で「阿蘭陀」と表記されることから蘭の字が使われます)、で「和華蘭料理」。オランダやポルトガルを中心とした西洋、そして中国大陸との交流が花開いた長崎の歴史ならではの料理・・・どんな味がするのか、食べてみたいですね。
一方、「ハトシ」はエビのすり身を食パンで挟んで、油で揚げたもので、明治時代に中国大陸から伝わった料理です。広東語で「蝦(ハー;エビ)」「多士(トーシー;トースト)」で、「ハトシ」。こちらも卓袱料理の一品として知られていましたが、最近では食べ歩きのスナックとして販売するお店もあり、気軽に食べられるメニューとなっています。揚げた香ばしさとエビのうまみが感じられて、子どもも食べやすいですね。
出展元:農林水産省webサイト「うちの郷土料理」
西洋のシチューが、長崎では「ヒカド」という新しいメニューになりました
出展元:農林水産省webサイト「うちの郷土料理」、画像提供元:(公社)長崎県栄養士会
パイ包み、と思いきや・・・中の具材は中華&和風で、これぞ「和華蘭」料理
出展元:農林水産省webサイト「うちの郷土料理」
エビのすり身を食パンで挟んで揚げた「ハトシ」。エビのうまみが濃縮されていて、また、食べたくなる味
長崎市浦上地区に伝わる郷土料理が「浦上ソボロ」。ポルトガル人宣教師が信徒たちに健康に良いとして豚肉を食べさせようと生まれた料理と言われています。
信徒たちは豚肉に加え、野菜をたっぷり入れて作るようになったので、今では素朴な味の家庭料理として知られるようになりました。ソボロ、の名前ですがひき肉ではなく、豚肉を細かく刻んで使います。それに、揚げかまぼこやにんじん、もやしなどを加えて炒め、しょうゆやみりんなどで味付けをします。
長崎には、海外との交流の歴史の中で、伝わったり、西洋のメニューを真似して作られた料理が多いことが分かりますね。また、料理のメニューだけでなく、じゃがいもやトマト、コーヒーといった食材やし好品も海外から伝わり、長崎から全国に広がりました。
中でも、砂糖は鎖国時代に船の重しとして長崎で荷揚げされ、それまでの料理やお菓子の文化や風習に大きな影響を与えました。
「長崎天ぷら」は長崎ならでは、砂糖を使っています。
通常、天ぷらは野菜や魚介類に衣をつけて高温の油で揚げ、天つゆや塩をつけていただきます。しかし、その衣に砂糖を加えるのが長崎流。こちらも南蛮貿易に来たポルトガル人が食していた西洋の「フリッター」を真似たものと言われていて、すでに衣に味がついていることから、天つゆを付けずにそのまま食べることができます。砂糖を入れて衣がふわっと膨らんだ長崎天ぷら。甘くて、クセになる味です。
長崎の郷土料理、最後に紹介するのは「ミルクセーキ」。夏だけでなく1年を通して、好まれる冷たくてあまーいデザートです。
大正から昭和初期にかけて、長崎市内の喫茶店で牛乳と卵と砂糖で作った飲み物に砕いた氷を入れて作ったのが、ミルクセーキの始まりだそうです。
昔は、甘みが足りないことを長崎弁で「長崎が遠い」(長崎が近いほど、甘い)と言ったそうで、たくさんの砂糖が手に入った長崎ならではの甘い味付けを思い出させます。
5回にわたって、農水省のウェブサイト「うちの郷土料理」から長崎の郷土料理をご紹介しました。豊かな海の幸、山の幸を使って、甘めの味付けで作られる料理が多く、海外に開かれた長崎の歴史や文化にも影響された特徴があることも分かりました。
でも、まだまだ、長崎の郷土料理、グルメはありますね。佐世保に行けば「佐世保バーガー」、雲仙の「温泉たまご」や「湯せんぺい」、平戸の「カスドース」をはじめとするお菓子・・・海洋県・長崎ならではの海の幸、お刺身に一夜干し・・・農水省のウェブサイトでは選ばれていなくてもそれぞれの地域でずっと受け継がれた郷土料理もまだまだありそうですね。みなさんも、さらに長崎県内を冒険して探してみてください!
野菜もたっぷり「浦上ソボロ」
出展元:農林水産省webサイト「うちの郷土料理」
「長崎天ぷら」のポイントは衣に砂糖をいれること。冷めてもおいしいよ
出展元:農林水産省webサイト「うちの郷土料理」 画像提供元:(公社)長崎県栄養士会
長崎の定番デザート・ミルクセーキ
写真提供:農林水産省webサイト「うちの郷土料理」/(公財)長崎県栄養士会
文:冒険する長崎事務局
掲載日:
2023/03/03
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