島原市の中心部から諫早市の中心部まで、島原半島の有明海沿岸を走る黄色い列車「島原鉄道」は2021年で開業113年を迎えます。
島原鉄道といえば、過去「鯉駅長さっちゃん」(2017年)のグッズや、黒字経営を目指し発売した赤字の同色ボールペン「赤字ペン」(2020年)など個性的なグッズが人気です。
このほど、113年記念に発売されたのは、その名も「クセが強い島原鉄道あるあるシリーズ 手さげとTシャツと私(鉄)」。ラインナップは手さげ、Tシャツ、缶バッジの3種類。それぞれ4つの柄があるのですが、そのイラストがなんとも不思議なのです。
「犬釘」「枕木」「硬券」「とまれみよ」の文字が横に書かれたイラストは、釘に首輪がついていたり、木の板をまくらにして寝ている人だったり、石でできた乗車券だったり。
それらがとてもゆる~いタッチで描かれています。
これは一体何だろう?どうやら鉄道に関わるもののよう・・・?
気になった私は「犬釘」「枕木」「硬券」「とまれみよ」について聞いてみようと、島原鉄道の本社を訪ねました。
島原鉄道1911(明治44)年、諫早~愛野村(現:愛野)間で開業しました。
それより39年前の1872(明治5)年、日本で初めての鉄道が新橋~横浜間で開業しました。
西洋の文化が日本に流入した文明開化時代の象徴ともいえる出来事です。
そこで走ったのが日本の「1号機関車」と呼ばれる国鉄150形蒸気機関車です。
島原鉄道初代社長・植木元太郎は島原半島の「文明開化」のため、この1号機関車を入手しました。
1号機関車はその後19年の間、島原鉄道で活躍することになります。その後、鉄道省への機関車返還を命じられた植木は、苦楽をともにしてきた1号機関車との別れの際に「惜別感無量」と、車体に取り付けられたプレートに書きました。誰にとっても別れは辛いものですが、この言葉が人ではなく機関車に向けられた言葉だと知ったら
ちょっと興味がわきますね。
©島原鉄道株式会社
島原外港行きの「1号機関車ラッピング列車」
©島原鉄道株式会社
クセが強い島原鉄道あるあるシリーズより、「手さげとTシャツと私(鉄)」缶バッジ
©島原鉄道株式会社
1号機関車に取り付けられた植木元太郎「惜別感無量」のプレート
~缶バッジのなぞ~
島原鉄道本諫早駅で、さっそく、見つけました。ホーム沿いのフェンス越しから「枕木」が見えます。
レールの下に敷いてある木の板、これが「枕木」です。
現在、木製のものからコンクリートへ取り換える工事を進められています。
この木製の枕木とレールが接する部分をよく見ると、釘のようなものがレールをひっかけるようにして枕木に打ち付けてあります。これが「犬釘」です。
「犬釘」はこのレールをひっかけている出っ張った部分が犬の顔に見えることからそう呼ばれているとか。
なるほど!でも、離れた場所からはこれが犬の形をしているかどうかよくわかりません。
そこで、実際に使われた犬釘が保管されているという島原鉄道本社を訪ねてみました。本諫早駅から島原鉄道でおよそ70分の島原港駅近くに本社はあります。
犬釘を見せていただくと・・・前に大きく伸びた出っ張り、耳のように横に突き出た部分、まさしく犬にしか見えない釘でした。
こうして、島鉄113年記念グッズのうち、「枕木」「犬釘」は列車が走るレールに欠かせないものだということがわかりました。残るは「硬券」「とまれみよ」。
島原駅の駅長・水江さんにお話を聞いてみました。
水江さんは駅の駅員室の机に、改札で切符を切るのに使う「改札鋏(かいさつきょう)」を4本並べると
「島原鉄道の改札鋏は駅によって形が違うんです」とおっしゃいました。
改札鋏をよく見てみると、切符を切る刃の部分の形がそれぞれ違っていることがわかります。
島原鉄道では切符を切る有人駅(駅員のいる駅)である「本諫早駅」「多比良駅」「吾妻駅」「島原駅」「島原船津駅」の改札鋏は刃の形を変えているそうです。
どうしてそのようなことをしているのでしょうか?
島原鉄道では自動改札機を導入していないので、改札時に切符を「切る」ことで乗車したというしるしをつけています。さらに鋏を変えることで、その裁断面の違いでどの駅から乗ったのかがすぐわかるようにしているのです。
私は駅長さんが見せてくれた裁断面の一覧表を見ながら、「石の切符を改札鋏で切っている『硬券』のグッズイラスト」を思い出しました。硬券って・・・石でできているわけじゃなく、厚い紙でできた切符のことだったのですね。
本諫早駅沿いの歩道から見ることができる枕木
実際に使われていた犬釘(島原鉄道所蔵)
各駅で使われている改札鋏の裁断面の違い
せっかくの機会なので、もう一つ、普段から気になっていることも聞いてみました。
鉄道沿線のお店や観光スポットなどはたくさんあり、とても魅力的な場所が多いことはよく知られています。
でも、各駅や列車に乗っている最中にも実は見過ごしている島原鉄道の魅力があるのでは?と思ったのです。
島原鉄道本社の営業総括部・島田さんはこう答えてくれました。
「日本一海に近い駅として有名でCMにも使用された大三東駅は朝日がきれいな駅として有名ですが、実は夕日がきれいな駅として古部駅も推しているんです」
古部駅については島原駅の駅長・水江さんも乗務員時代にいつも感動していたそうで、運転席からの絶景を見ると「こんな絶景をひとりじめしていいのか」とまで思ったといいます。
客席から見る景色と運転席から見る景色はまた違うようで、駅長さんは「列車に乗る時は運転席の横隣、進行方向が見える場所に立つといいよ」と教えてくれました。
なんとなく運転手さんの邪魔になるような気がして立てなかったあの場所。
「迷惑じゃないですよ。むしろ一番前の景色を楽しんでほしい」という言葉に、鉄道に乗る楽しみが増えました。
朝焼けの中で一人目の乗客を待つ大三東駅
古部駅の夕日はとってもきれいです
運転席の横隣は駅長さんもオススメする特等席
そして残るは「とまれみよ」ですが、今回は時間切れ・・・見つけることができませんでした。
島原鉄道のホームページによると、これは警報機や遮断機が設置されていない踏切で、通る人たちに注意を呼びかける標識なんだとか。
止まって、電車が来ていないか見て、渡ってください、という「とまれみよ」なんですね。
諫早市体育館付近で遮断機のない踏切を発見しましたが「とまれみよ」ではありませんでした
偶然通り過ぎた列車は1号機関車ラッピング列車!
島原鉄道トレインデコウォッチ(2019年)と鉄道・バス・フェリーが1日乗り放題になる島原半島周遊パス
島原鉄道にはクリーム色との塗分けがまるでパンツに見えることからそう呼ばれている赤パンツ列車、幸せの黄色い列車王国のイメージキャラクターでもある鯉駅長「さっちゃん」号、ゆるキャララッピング列車といったラッピング列車もあり、どのラッピング列車に乗るかもひそかな楽しみのひとつです。
また列車内で地元のグルメやスイーツを楽しめる「カフェトレイン」も気になります。
今回、島原鉄道を巡ることで改札鋏など普段意識していなかったものについて学ぶきっかけになりました。そして「缶バッジ」に残るなぞ「とまれみよ」・・・街を歩く時も「とまれみよ」がないか、探しながら探索したいと思います。
©島原鉄道株式会社
赤パンツ列車 復刻塗装
©島原鉄道株式会社
鯉駅長の「さっちゃん」号
©島原鉄道株式会社
ゆるキャララッピング列車。
12月25日には新しいラッピング列車がお目見え予定です。
文・写真:木端みの
写真提供:島原鉄道株式会社
掲載日:
2021/12/20
※掲載している情報は記事公開時点のものです。変更される場合がありますので、お出かけの際には事前に各施設へお問い合わせください。
長崎県島原市片町577-1(島原駅)