「九州オルレ」とは、五感で自然を感じながら九州各地の散策コースを歩こうというプロジェクトです。「オルレ」は韓国の済州島(さいしゅうとう)の言葉で、「通りから家に通じる狭い路地」を意味します。その言葉がやがて「トレッキングコース」という意味で使われるようになり、最初は韓国で広がり、次に日本でも使われるようになりました。現在九州オルレとして21のコースが用意されており、長崎県では「島原コース」と「南島原コース」の2つのコースを歩くことができます。今回は南島原コースを紹介したいと思います。
島原半島の南部に位置する南島原市の最南端、そこに位置するのが口之津町です。この町は「自然の良港」と言われる口之津港があり、これまで、3度の繁栄を通して発展してきた所です。その3度の繁栄とは、450年前に始まった「南蛮貿易とキリスト教布教の時代」、明治の「三井三池炭の海外積出の時代」そして昭和に入ってからの「日本一の船員輩出の時代」です。
九州オルレ「南島原コース」は、この口之津港のターミナルをスタートとして、約10.5キロ、所要時間、3〜4時間の道のりを歩くコースです。
最初は昔ながらの細い路地が残る港界隈を歩きます。最初のスポットは、「八雲神社」。ここでは、鳥居の前に作られた石灯籠の上に注目。逆立ちした珍しい狛犬が置かれています。
©南島原市・九州オルレ
九州オルレのスタートは口之津港ターミナル
©南島原市・九州オルレ
逆立ちした狛犬がユニークな八雲神社
口之津ターミナルを出発してから1.9キロ、「野田堤」に到着します。堤とは言うものの、標高90メートルの烽火山のふもとにある人工の池のことです。16世紀後半、この地域の水田を潤すために野田新左衛門によって発案されたものです。山の上にあり湧水もないため、発案当時は、地元の人たちに「水は貯まらないだろう」と批判されましたが、後に干ばつが起きたことで貯水池の必要性を理解してもらいこの池が完成しました。発案者の名前を取って野田堤と呼ばれています。池のたもとに立つと遠くに有明海や天草諸島を眺望することができます。
©南島原市・九州オルレ
烽火山のふもとに作られた貯水池「野田堤」
©南島原市・九州オルレ
野田堤の周辺を歩く人々
次の目的地は「野向の一本松」です。名前の通りかつてここには松の木が一本立っていました。この松は、詩人野口雨晴が「野向一本松 根株はここに 枝は栄えて天草へ」と謳ったほど立派なものでしたが、終戦後、残念なことに虫に喰われて枯れてしまいました。今では、その松に代わって桜が植えられています。このスポットからの展望は素晴らしく、遠くに天草の島々が見渡せます。
野向の一本松を後に西に進むと、田尻海岸公園に到着します。ここにはハートの形をした大きな石「ハートストーン」があります。干潮の時しか見ることができないので、干潮の時間を調べておいた方がよいでしょう。この海岸公園から海岸沿いの道を南に200メートルほど歩いて行くとプライベートビーチ「田尻浜」に着きます。小さな入江が特徴の海岸です。
©南島原市・九州オルレ
野向の一本松では枯れてしまった松の木に変わって桜が植えられています。
©南島原市・九州オルレ
遠くに天草の島々が展望できます。
©南島原市・九州オルレ
干潮になると姿を現す田尻海岸公園のハートストーン
「瀬詰崎灯台(せづめさきとうだい)」は島原半島の最南端にあります。この辺りは有明海の入口になり、「日本三大潮流」の一つに数えられるほど潮流が激しいことで知られています。1966年、周辺を航行する船の安全を願ってこの灯台が作られました。
瀬詰崎灯台からは、島原半島を東に向かって歩きます。次の目的地は「あこう群落」です。あこうはクワ科の木で、大きなものでは高さが20メートルになるものもあります。幹や枝からたくさんの根(気根)が生えているのが特徴です。入り組んだ根の隙間から顔を出して写真を撮るのも楽しいです。口之津のあこう群落には樹齢300年を超えるものも含め約20本並んでいます。一部は防風林・防潮林として植えられましたが、自然に生えたものもあります。
©南島原市・九州オルレ
島原半島の最南端にある瀬詰崎灯台
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遠方に灯台を望む
©南島原市・九州オルレ
あこう群落
九州オルレ南島原コースも終盤に入ってきました。ここからは、口之津灯台に立ち寄り、その後赤いなんばん大橋を渡り、口之津歴史民俗資料館の分館に進みます。口之津灯台は1880年に初めて点灯した歴史ある灯台です。白い六角形の建物が印象的。
口之津歴史民俗資料館の分館は、以前は資料館の本館として機能していましたが、2020年、資料館のほとんどの展示物が新しい口之津ターミナルができた時にビル内に移設されました。現在分館と呼ばれている建物は長崎税関の口之津支庁だった建物を資料館に改築したもので、今でも一部の歴史民俗資料が残され展示されています。時間があれば、ターミナルに移設した資料館本館もぜひ訪ねてみてください。口之津の歴史や文化がよくわかることでしょう。
南島原市口之津町を歩く九州オルレ「南島原コース」。港町として発展した口之津の町の様子やそれぞれの時代に反映した口之津の歴史など、よく理解できるのではないかと思います。南島原コース、ぜひ歩いてみてください。
九州オルレの各コースの通過点には赤と青の標識やリボンが配置され、道案内をしてくれます。後でコースを歩く人が困らないよう、こうした標識を壊したり、リボンを取ったりしないよう注意して散策を楽しみましょう。オルレの詳しい内容については公式サイトで確認してください。
©南島原市・九州オルレ
口之津灯台
©南島原市・九州オルレ
なんばん大橋
©南島原市・九州オルレ
口之津歴史民俗資料館分館
写真提供:南島原市・九州オルレ
文:Setsuko Truong
メルボルン在住のフリーランスライター。旅とアートが趣味で日本国内・海外あちこち旅してきました。長崎は好きな町の一つ!そんな長崎の魅力をお伝えしたいと思います。
掲載日:
2021/04/20
※掲載している情報は記事公開時点のものです。変更される場合がありますので、お出かけの際には事前に各施設へお問い合わせください。
【口之津港】〒859-2504 長崎県南島原市口之津町丙4358-6
【八雲神社】〒859-2502 長崎県南島原市口之津町甲1205
【瀬詰崎灯台】〒859-2501 長崎県南島原市口之津町
【あこう群落】〒859-2501 長崎県南島原市口之津町乙414-1
【口之津灯台】〒859-2502 長崎県南島原市口之津町65
【口之津歴史民俗資料館分館】〒859-2502 長崎県南島原市口之津町甲16-7