まだ風は冷たいものの、季節は一歩ずつ春へと近づいています。そろそろ、皆さんのおうちにはひな人形を飾り始めるころでしょうか。
女の子の健やかな成長を祈る「ひな祭り」。3月3日の「桃の節句」にあわせ、ひな人形や桃の花を飾り、ひなあられや菱餅を供えます。みんなで集まって、春らしく彩った「ちらし寿司」をいただく・・・柔らかな春の日差しや咲き始めた花々の黄色やピンクの色合いとあわせて、特に女の子たちには楽しい思い出として残るイベントです。そんなひな祭りの歴史は古く、平安時代には人をかたどった紙の人形を厄除けとして川に流す「流しびな」がすでに行われていました。そして、江戸時代には今にように美しいひな人形を見て楽しむようになったと言われています。その後、男びな・女びな、それに三人官女や五人囃子(ばやし)、それに鏡台など精巧に作られたお道具を階段式に並べるひな飾りが一般的になりました。
見るだけでその豪華さに「ほぅ」とため息が出ちゃうような、恒例のひな人形の特別展示が、東彼杵町にある古民家「明治の民家」で行われています。
かやぶき屋根の農家を移築した古民家には、町内の方から寄贈されたという9台の古いひな段飾りのほか、紙人形などが並んでいます。
古民家に飾られたひな人形。7段飾りが豪華です
大正から昭和初期にかけて飾られていたひな人形。東彼杵町の方々から寄贈されました
1935年(昭和10年)ごろに作られたとのこと。今のひな人形との違いを見つけるのも楽しい
このうち、古民家の奥に置かれた3つのひな段飾りは、大正から昭和の初期にかけて作られ、飾られていたものです。保存状態がとてもよく、100年も前のものとは思えないほど当時の様子を私たちに伝えてくれています。一番上には、御殿に飾られた男びなと女びな。その下の段には三人官女に、笛や太鼓を持った五人囃子、さらにお付きの者が並びます。今のおひなさまと変わらない豪華なひな飾りですが、「今はあるけど、昔にはなかったもの」に気づきます。それは・・・プラスチック。三人官女の脇に飾られた「高坏(たかつき)」や菱餅など、近くでよく見てみると、昔は紙などで作られていることがわかります。
さらに、ひな飾りをよく見てみると、一番左にあるものだけ、男びな・女びなの位置が逆になっています。ひな人形の飾り方には、京都を中心とした「京雛」の公家式、と関東を中心とした「関東雛」の武家式があって、京雛は京都御所での位置に由来して、向かって右側が男びなと「関東雛」とは逆に飾られるそうです。
そんな「京雛」のひな人形を寄贈した方は1946年、太平洋戦争が終わった翌年のひな祭りの思い出を「祖母・母・叔母・妹・従妹(いとこ)達や近所の女の子も呼んで、祖母が漬けてくれた『大村ずし』を食し、『リンゴの唄』(当時の流行歌)を皆で歌ったりしてにぎやかに過ごしたのがなつかしい思い出です。本当に平和な時代を迎えた実感でした」と話しています。ひな祭りの楽しい思い出ですね。
豪華なひな飾り。昔の女の子たちもひな祭りを楽しんだことでしょう
プラスチック製品がない時代。様々な工夫と技で作られているのがわかります
「京雛」は、男びなが向かって右側に。そんな飾りの違いを見るのも楽しい
ひな飾りとあわせて、たくさん飾られているのが「押し絵人形」という紙人形。大正時代から昭和初期ごろに、家の畳と畳の間や大根に刺して飾ったそうです。絵柄は「おひなさま」に関連するものではなく、歌舞伎や狂言の題目をモチーフにしたものが多いそうで、展示会の会場にもお侍さんや町の人たち?と思わせるような押し絵人形がずらりと並びます。
人形の手足の動きや表情がどれもイキイキとしていて、何だか、声が聞こえてくるような感じですよ。
こちらが「押し絵人形」。畳の間に刺したりして飾ったそう
表を覗くような表情の2人。何を話しているのやら・・・
「ええい、待て待てー」。想像して遊びたくなる、そんな人形です
懐かしさを感じる古い民家で開かれている東彼杵町の「ひなまつり」展。古民家の外に植えられたサクラのつぼみはまだ硬いものの、ひな飾りを見るとわぁ!と心に春の温かさが舞い込んでくるようです。
2023年の開催は4月3日まで、入場は無料です。
昔のひな人形の表情と、皆さんのおうちで飾るひな人形のお顔を比べるとどう?表情が違うかな?
東彼杵町のかやぶき屋根の農家を歴史公園内に移設。古民家も探検してみてね
隣接する歴史民俗資料館にも「昔の道具」がいっぱい。こちらもチェックだ!
写真・文:冒険する長崎事務局
掲載日:
2023/02/16
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長崎県東彼杵郡東彼杵町彼杵宿郷430-5